2021年最初の対局は、初戦を勝ったigobearさんと、インストラクターの中村泰子さんの対局です。中村泰子さんは日本棋院北海道本部で囲碁教室の講師をしているので、北海道囲碁界では有名な人です。ペア碁棋戦にもよく出ていて、1990年にはNKB杯国際囲碁アマチュア・ペアトーナメント大会で全国3位に入ったことがあるそうです。棋風は「ガチャガチャ」読む力戦派。当たるかどうかは後回しにして、体ごと突き抜くようなパンチを深く踏み込んで打ってくるような印象で、実際に打ったら冷や汗が出そうです。またはそのままあぶら汗を流して悶絶しそうです。
筆者はこの大会の参加者のほとんどと打ったことがないのですが(ないのかよ)、中村さんは一度身内の碁会にお招きしたときに打ったことがありません(ないのかよ)。でも、その時に当協会秘蔵(隠してないけど)の21路盤で、広くて楽しい広くて楽しいと言いながら碁をめっちゃ愉快そうに打っていたのが印象的でした。楽しげに碁を打つ人を見ていると、こっちまで楽しくなりませんか。
さて、本年最初の営業日である1月3日に打たれたこの対局ですが、実はビルの真下の部屋でもまだ営業が始まっていなくて、ストーブを全開に焚いても足元がひんやりする底冷えの中で行われました。まして、年末年始は滅多にない寒波が北海道を襲っていて、外は例年の冬より5度は寒かろうかというキンキンの天候。碁の内容とは何の関係もありませんが、両対局者含めてみんな上着を着て碁を打っていました。中村さんのトレードマーク、ロングのストレートへアーと黒いコートでなんだかメーテルみたいでした。(メーテルは金髪だけど……)
前置きが長くなりましたが、ここから対局の中身について。 なお、今回から突然変化図がつくようになりましたが、これは解説役の義行先生が検討画面を写真にとることを思いついて写真で示してくださるようになったからで、別に今まで手を抜いていたわけではありません。まあ、碁において手抜きというのはそんなに悪いものではないんですが……。
黒11にカカリを打つなら黒9ツギは重くなるので打たない方が普通らしいです。
白12は左辺星にハサミたいと義行先生。黒9ツギからの三間ビラキを邪魔してピッタリということでしょうか。
黒15はAI流かと思いますがこの局面では問題ではないかと義行先生はいいます。白18に黒19と打ち込むのであれば黒15で18辺りにハサミを打つべきでは、とのこと。
また、黒27は6の三に打ち居直りたいそうです。ガチャガチャ読むのが中村さんのスタイルですので、きっとそんな手も読んでいたことと思います。
(ところで、さんざん変化を読んだあげく相手がどの変化にもない手を打ってきたときって、疲れませんか。よくあることですが。)
義行先生の推奨では、黒29は32に打ってはとのこと。
白8の四なら黒34がぴったりです(変化図)。
また白30は8の四に打つべきでしょうとのことで、黒23を取ってもつまらないというのがその心です。
黒33は露骨ですが9の四のアタリを打ちたい。(変化図参照)
白ツギならそれからハネればツギが先手になり黒7と打つことが出来ます。たしかにこの図は黒いいですね。厚みと深みを感じます。
白36は打ち過ぎとの評価。形勢不利との判断でしょうかと義行先生の指摘がありますが、局後にそういう話はしていなかったような気がします。単なる棋風かもしれません。
地合は悪くないので変化図白1くらいで良いと思います、と先生はいうのですが、ここは(白38で)打たれたら嫌だなとigobearさんが思っていた箇所だそうです。局後に「そっちだったかあ~」と中村さんが言っていました。
黒37はめっちゃ冷静で渋い島村先生(わかるかな?)のような一手!だそうです。
義行先生ならカッとなって39かその一路下に打ちそう、らしいですよ。
※島村 俊廣(しまむら としひろ)、1912年4月18日 - 1991年6月21日。三重県鈴鹿市出身、日本棋院所属、九段、鈴木為次郎名誉九段門下。王座戦、天元戦優勝、本因坊戦挑戦2回。渋い辛抱のいい棋風で「いぶし銀」と呼ばれ、また「忍の棋道」を自認した。
白38では下図のように36を捨てる感じで打ちたい、もちろん黒が36を取るかは不明ですが、とこれまた義行先生。
白64まで白は逃げるだけの辛い展開、と義行先生が指摘しますが当の本人はそこまで悲観していなかったように感じました。局後の検討のときの雰囲気では。
続いて
黒71は15の十にボウシを打ちたい。
白72は15の十にトブくらいです。
と、義行先生の評があるんですが、この辺では筆者は白がしのげるのかどうかひやひやのし通しでした。筆者と同じくらいの棋力の観戦者のオジサマもひやひやしていたみたいです。床もひやひやしてましたけど……。
黒77のツギは白が打たないところなので不要です。14の八に押しましょうよと義行先生が言うのですが、筆者なぞは10回打ったら10回つぎそうです。だって、怖いし……。
この後も難しい戦いが続いたのですが解説はここまでで、最後は残り時間の多い方が有利そうですね、と義行先生のまとめがありました。これがビンゴで、最後は中村さんが0.5秒くらいで一手一手を打っていました。人間があんなに早く打つところを初めて見ました。芸術的でした。
ちょっと補足しますと、局後の検討で白170のハネが黒地をほとんど減らしていなくて小さいヨセで、どうせなら左上隅をはねるべきだったという話になりました。最終的には2目半ですから、そういう差で勝ち負けがひっくり返った可能性もあったわけですね。Igobearさんは持ち時間を25分くらい余していましたから、たしかに持ち時間の差が勝敗に直結していたような気がします。
これにて、igobearさんは義行先生を除くベスト4に勝ち残りです。最年少にしてベスト4は実にお見事です。